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東京地方裁判所八王子支部 昭和44年(ワ)202号 判決

主文

1第二〇二号事件被告斎藤皖資は、第二〇二号事件および第五四九号事件原告兼第二九〇号事件被告藤山みち、同藤山稔、同細川典子、同藤山隆昭、同藤山輝昭および同太田いつ子に対し、別紙目録(一)記載の土地につき、昭和二一年六月一八日の売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

2第二九〇号事件原告兼第五四九号事件被告和田良二は、別紙目録(一)記載の土地につき、東京法務局田無出張所昭和四四年三月三日受付第七七六一号条件付所有権移転仮登記および同出張所同月二五日受付第一一〇八九号所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

3第二九〇号事件被告中野伊和男は、同号事件原告兼第五四九号事件被告和田良二に対し、別紙目録(一)記載の土地上にある同目録(八)記載の建物を収去して、その敷地部分を明渡せ。

4第二九〇号事件被告吉田理吉は、同号事件原告兼第五四九号事件被告和田良二に対し、別紙目録(一)記載の土地上にある同目録(八)記載の建物から退去して、その敷地部分を明渡せ。

5第二九〇号事件原告兼第五四九号事件被告和田良二のその余の請求を棄却する。

6訴訟費用は、これを一〇分し、その五を第二九〇号事件原告兼第五四九号事件被告和田良二の、その四を第二〇二号事件被告斎藤皖資の、その一を第二九〇号事件被告中野伊和男および同吉田理吉の各負担とする。

7この判決は、主文第三、四項に限り、第二九〇号事件原告兼第五四九号事件被告和田良二において、第二九〇号事件被告中野伊和男および同吉田理吉に対し、それぞれ金五〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、その被告に対して仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(第二〇二号事件について)

一、第二〇二号事件および第五四九号事件原告兼第二九〇号事件被告(以下単に「被告」という)藤山みち、同藤山稔、同細川典子、同藤山隆昭、同藤山輝昭および同太田いつ子(以下単に「被告藤山みちほか五名」という)

1、第二〇二号事件被告斎藤皖資(以下単に「被告斎藤」という)は、被告藤山みちほか五名に対し、別紙目録(一)記載の土地(以下単に「本件土地」という)につき、昭和二一年六月一八日の売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

2、訴訟費用は被告斎藤の負担とする。

二、被告斎藤

1、被告藤山みちほか五名の請求を棄却する。

2、訴訟費用は被告藤山みちほか五名の負担とする。

(第二九〇号事件について)

一、第二九〇号事件原告兼第五四九号事件被告(以下単に「原告」という)

1、被告藤山みちほか五名は、原告に対し、本件土地上にある別紙目録(二)記載の建物(以下単に「第一建物」という)および同目録(三)記載の建物(以下単に「第二建物」という)を収去して本件土地を明渡し、かつ、昭和四四年二月一日から右土地明渡ずみまで一か月金二四、一一六円の割合による金員を支払え。

2、第二九〇号事件被告平山みよ(以下単に「被告みよ」という)は、原告に対し、本件土地上にある別紙目録(四)記載の建物(以下単に「第三建物」という)を収去して、その敷地三六・三六平方メートルを明渡し、かつ、昭和四四年二月一〇日から右土地明渡ずみまで一か月金二、二〇〇円の割合による金員を支払え。

3、第二九〇号事件被告平山修一(以下単に「被告修一」という)は、原告に対し、本件土地上にある別紙目録(五)記載の建物(以下単に「第四建物」という)を収去して、その敷地三七・一八平方メートルを明渡し、かつ、昭和四四年二月一〇日から右土地明渡ずみまで一か月金二、二〇〇円の割合による金員を支払え。

4、第二九〇号事件被告小菅辰雄(以下単に「被告小菅」という)は、本件土地上にある別紙目録(六)記載の建物(以下単に「第五建物」という)を収去して、その敷地四九・四五平方メートルを明渡し、かつ、昭和四四年二月一〇日から右土地明渡ずみまで一か月金二、七五〇円の割合による金員を支払え。

5、第二九〇号事件被告村主順二郎(以下単に「被告村主」という)は、原告に対し、本件土地上にある別紙目録(七)記載の建物(以下単に「第六建物」という)を収去して、その敷地二一・四八平方メートルを明渡し、かつ、昭和四四年二月一〇日から右土地明渡ずみまで一か月金一、二〇〇円の割合による金員を支払え。

6、第二九〇号事件被告中野伊和男(以下単に「被告中野」という)は、原告に対し、本件土地上にある別紙目録(八)記載の建物(以下単に「第七建物」という)を収去して、その敷地三五・五二平方メートルを明渡し、かつ、昭和四四年二月一日から右土地明渡ずみまで一か月金二、一五〇円の割合による金員を支払え。

7、原告に対し、第二九〇号事件被告藤山食品有限会社(以下単に「被告藤山食品」という)は第一建物および第二建物から、第二九〇号事件被告山田義一(以下単に「被告山田」という)は第三建物から、第二九〇号事件被告吉田理吉(以下単に「被告吉田」という)は第七建物からそれぞれ退去して、右各建物の敷地部分を明渡せ。

8、訴訟費用は被告斎藤を除くその余の被告らの負担とする。

9、仮執行の宣言

二、被告斎藤を除くその余の被告ら

1、原告の各請求を棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

(第五四九号事件について)

一、被告藤山みちほか五名

1、原告は、本件土地につき、東京法務局田無出張所昭和四四年三月三日受付第七七六一号の条件付所有権移転仮登記および同出張所同月二五日受付第一一〇八九号の所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

二、原告

被告藤山みちほか五名の請求を棄却する。

第二、当事者の主張

(第二〇二号事件について)

一、請求の原因

藤山吉太郎は、昭和二一年六月一八日、被告斎藤の代理人野口きみとの間で、被告斎藤所有にかかる本件土地を代金五、二五〇円で買い取る旨の契約を結んでその所有権を取得したが、昭和四六年一二月三日死亡したので、被告藤山みちほか五名がこれを相続した。よつて、被告藤山みちほか五名は、被告斎藤に対し、本件土地につき、昭和二一年六月一八日の売買を原因とする所有権移転登記手続を求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因事実中、本件土地がもと被告斎藤の所有であつたこと、藤山吉太郎が死亡したので被告藤山みちほか五名がこれを相続したことを認め、藤山吉太郎が被告斎藤から本件土地を買い受けたことを否認する。

(第二九〇号事件について)

一、請求の原因

1、本件土地はもと被告斎藤の所有であつたが、原告は、昭和四四年二月一〇日、被告斎藤からこれを買い受けてその所有権を取得し、その旨の所有権移転登記を了した。

2、藤山吉太郎は、昭和二四年一二月末ころから本件土地上に第一建物および第二建物を建築所有して、その敷地を占有していたが、昭和四六年一二月三日死亡したので、被告藤山みちほか五名がこれを相続した。

3、原告が本件土地の所有権を取得した昭和四四年二月一〇日以前から本件土地上に、被告みよは第三建物を、被告修一は第五建物を、被告小菅は第五建物を、被告村主は第六建物を、被告中野は第七建物を各所有して、それぞれその敷地を占有している。

4、被告藤山食品は、第一建物および第二建物をその店舗として使用し、被告山田は第三建物に居住し、被告吉田は第七建物で不動産仲介業を営み、それぞれその敷地を占有している。

5、被告斎藤、同藤山食品、同山田および同吉田を除くその余の被告らが本件土地を占有しているので、原告は右占有により一か月三・三〇五平方メートル当り金二〇〇円の割合による賃料相当の損害を被つている。

6、よつて、原告は、被告斎藤を除くその余の被告らに対し、請求の趣旨記載の裁判を求める。

二、請求原因に対する認否

(被告藤山みちほか五名、同藤山食品、同みよ、同修一、同村主および同山田関係)

1、請求原因第1項の事実中、本件土地がもと被告斎藤の所有であつたこと、本件土地につき原告のため所有権移転登記が経由されていることを認め、その余を否認する。

2、同第2項の事実を認める。

3、同第3項の事実中、昭和四四年二月一〇日以前から、被告みよが第三建物を、被告修一が第四建物を、被告村主が第六建物を所有し、その敷地を各占有していることを認める。

4、同第4項の事実中、被告藤山食品が第一建物および第二建物を使用し、被告山田が第三建物に居住していることを認める。

5、同第5項の主張を争う。

(被告小菅関係)

1、請求原因第1項の事実中、本件土地がもと被告斎藤の所有であつたことを認め、その余は知らない。

2、同第3項の事実中、被告小菅が第五建物を所有し、その敷地を占有していることを認める。

(被告吉田関係)

1、請求原因第1項の事実中、本件土地がもと被告斎藤の所有であつたことを認め、その余は知らない。

2、同第4項の事実中、被告吉田が第七建物で不動産仲介業を営んでいたことを認める。

(被告中野関係)

1、請求原因第1項の事実中、本件土地がもと被告斎藤の所有であつたことを認め、その余は知らない。

2、同第3項の事実中、被告中野が第七建物を所有していることを認める。

三、被告吉田、同中野を除くその余の被告らの抗弁

(被告藤山みちほか五名、同藤山食品、同みよ、同修一、同村主および同山田関係)

1、藤山吉太郎は、昭和二一年六月一八日、被告斎藤から本件土地を買い受けてその所有権を取得し、昭和三六年六月二一日、東京地方裁判所八王子支部において、本件土地につき処分禁止の仮処分決定を得て、同月二二日、東京法務局田無出張所同日受付第一五九八号をもつてその旨登記がなされた。したがつて、原告の所有権取得登記は、藤山吉太郎の被告斎藤に対する本件土地所有権移転登記手続請求事件(昭和四四年(ワ)第二〇二号事件)の勝訴判決が確定すれば、当然抹消されるべき運命にあるのであるから、原告は本件土地の所有権取得をもつて仮処分債権者たる藤山吉太郎に対抗することができない筋合いであるところ、同人は昭和四六年一二月三日死亡したので、被告藤山みちほか五名がこれを相続した。

2、原告は、本件土地取引における信義則に著しく違反し、背信的悪意の取得者であるから、被告藤山みちほか五名は、原告に対し、登記なくして本件土地所有権の取得を対抗しうる。すなわち、原告は、藤山吉太郎が昭和二一年以来所有権者として本件土地を占有支配していたことを承知していたはずであり、しかも登記簿上処分禁止の仮登記がなされていたのであるから、本件土地の所有権者が藤山吉太郎であることを十分承知のうえで本件土地を買い取つたものであるばかりでなく、本件土地につき藤山吉太郎のため所有権移転登記が経由されていないことを奇貨とし、本件土地の一部を占有している不動産仲介業者被告吉田および被告斎藤と共謀のうえ、本件土地を他に転売することにより、すでに藤山吉太郎が取得している本件土地所有権の対抗力を喪失させるとともに、最近不動産価格が急騰していることに乗じ、暴利を得ようとして本件土地を買い受けたものである。

3、原告は、右のような事情を知悉し、将来被告斎藤と藤山吉太郎との間で、本件土地に関する訴訟が提起されることを予期し、かつ、転売利益を目論んで本件土地を買い受けたものであつて、これらのことからすると、被告斎藤が原告に対し、本件土地を売り渡したことは、専ら藤山吉太郎の所有権取得の対抗力を喪失させ、原告の名において明渡訴訟を提起することを目的としたものであることは明白であり、かかる目的でなされた本件土地の売買契約は信託法第一一条に違反し無効であるから、原告は本件土地の所有権を取得するいわれがない。

4、被告藤山食品は藤山吉太郎から第一建物および第二建物の一部を借り受けており、被告みよ、同修一および同村主は藤山吉太郎から第三、第四および第六建物の敷地部分をそれぞれ賃借しており、被告山田は第三建物に居住しているものであつて、いずれもその敷地および建物を占有する権原を有するものである。

(被告小菅関係)

1、被告小菅は、昭和三〇年一月ごろ、藤山吉太郎から第五建物の敷地を期間を定めずに賃借している。

2、仮に、本件土地が原告の所有であるとしても、被告小菅は、第五建物の敷地部分につき、時効により賃借権を取得した。すなわち、被告小菅は、昭和三〇年一月、右敷地部分を藤山吉太郎から賃借し、直ちに右敷地に第五建物を建築し、その保存登記を了した。以来現在まで右敷地部分を賃借している。ところで、被告小菅は、右敷地部分を藤山吉太郎から借り受けた当時、本件土地に関し争いのあつたことは全く知らなかつたし、本訴が提起されるまで被告斎藤から明渡請求を受けたことがない。したがつて、被告小菅としては、右敷地部分を賃借する際、本件土地が藤山吉太郎の所有であると信じ、そう信ずることに何ら過失がなかつたから、右敷地部分を賃借後一〇年の経過とともに本件土地について賃借権を取得した。

四、抗弁に対する原告の認否

(被告藤山みちほか五名、同藤山食品、同みよ、同修一、同村主および同山田関係)

1、抗弁第1項の事実中、本件土地につき被告藤山みちほか五名主張の仮処分決定がなされたこと、藤山吉太郎が死亡し、被告藤山みちほか五名がこれを相続したことを認め、その余を否認する。

2、同第2ないし第4項の主張をすべて争う。

(被告小菅関係)

被告小菅主張の抗弁第1、2項を争う。

(第五四九号事件について)

一、請求の原因

1、本件土地はもと被告斎藤の所有であつたが、藤山吉太郎は、昭和二一年六月一八日、被告斎藤からこれを買い受けてその所有権を取得したものの、昭和四六年一二月三日死亡したので、被告藤山みちほか五名がこれを相続した。

2、ところが、所有権移転登記が未了であつたので、藤山吉太郎は、自己の権利を保全するため、昭和三六年六月二一日、東京地方裁判所八王子支部において、本件土地につき処分禁止の仮処分決定を得て、東京法務局田無出張所同月二二日受付第一五九八九号をもつて仮処分の登記がなされた。なお、右仮処分決定には表示上明白な誤謬があつたので、昭和四五年一一月二一日付で更正決定がなされた。

3、その後、原告は、本件土地について、東京法務局田無出張所昭和四四年三月三日受付第七七六一号をもつて条件付所有権移転仮登記を経由したうえ、同出張所同月二五日受付第一一〇八九号をもつて所有権移転登記を了した。

4、右処分禁止仮処分登記後、原告が本件土地につき何らかの権利を取得したとしても、仮処分債権者たる藤山吉太郎に対抗できないから、原告の右各登記は、被告藤山みちほか五名の被告斎藤に対する本案訴訟(前記第二〇二号事件)の勝訴判決が確定すれば当然抹消されるべきものである。

5、よつて、被告藤山みちほか五名は、原告に対し、本件土地につき東京法務局田無出張所昭和四四年三月三日受付第七七六一号条件付所有権移転仮登記および同出張所同月二五日受付第一一〇八九号所有権移転登記の各抹消登記手続を求める。

二、請求原因に対する認否

1、請求原因第1項の事実中、本件土地がもと被告斎藤の所有であつたこと、藤山吉太郎が死亡したので被告藤山みちほか五名がこれを相続したことを認め、その余を否認する。

2、同第2、3項の事実を認める。

3、同第3項の主張を争う。

第三、証拠関係(省略)

別紙

物件目録

(一)、東京都小平市学園東町四八番一〇

一、宅地 五七八・五一平方メートル

(二)、東京都小平市学園東町四八番地一〇

家屋番号 同町一六五番一六

一、木造板葺平家建店舗 一棟

床面積 四八・七五平方メートル(現況一四九・八六平方メートル)

(三)、同町四八番地九、四八番地一〇

家屋番号 同町四八番九

一、木造ブロツク造瓦葺二階建居宅兼倉庫 一棟

床面積 一階 一九・八三平方メートル(現況五九・五〇平方メートル)

二階 一九・八三平方メートル(現況五九・五〇平方メートル)

のうち西側一階一七・一二平方メートルおよび二階一七・一二平方メートル(別紙添付図面赤斜線部分)

(編注 赤斜線部分は黒斜線とする。)

(四)、同町四八番地一〇

家屋番号 同町一〇三番一三

一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建店舗 一棟

床面積 二四・七九平方メートル(現況三六・三六平方メートル)

(五)、同町四八番地一〇

家屋番号 同町四八番一〇の一

一、木造亜鉛メツキ鋼板交葺二階建居宅兼店舗 一棟

床面積 一階 三七・一八平方メートル

二階 二八・九一平方メートル

(六)、同町四八番地一〇

家屋番号 同町一〇三番一九

一、木造瓦葺二階建店舗兼居宅 一棟

床面積 一階 四九・四五平方メートル

二階 三三・〇五平方メートル

(七)、同町四八番地八

家屋番号 同町一〇三番二四

一、木造瓦葺平家建店舗兼居宅 一棟

床面積 七九・八六平方メートル

のうち西側二一・四八平方メートル(別紙図面黒斜線部分)

(編注 黒斜線部分はリーダー斜線とする。)

(八)、同町四八番地一〇

家屋番号 同町一六五番一五

一、木造板葺平家建店舗 一棟

床面積 三五・五二平方メートル

別紙図面

〈省略〉

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